次は床下についてですが、ある意味車体以上に検討が必要だったのが走行機器類だと言えます。車体が結局オールステンレスが普通鋼製になったとは言え、当時普通鋼製を採用する事自体は何ら問題は無くごくごく普通な事だったからです。
しかし走行機器類についてはそうもいかず、大量増備が控えていた事を考えると将来の増備を見越した性能、簡素な構成で故障のしにくい機器類、メンテナンスのしやすい配線、機器類である事が重要視されました。すなわち東武8000系のキモは床下機器や走行システム等にあります。
当時は1960年代前半と違い全電動車方式の見直しが各社で起こる風潮となっていました。これはまず第一にコスト削減が考えられます。電動車と非電動車ではモーター、制御装置、主抵抗器、発電制動車ならブレーキ用主抵抗器等といった高価で重量のある物が必要となりとにかくコストがかさみます。(大まかな機器以外にも多種多様な機器が鉄道車両には必要です。)重量が増えれば電気代、軌道破壊の増加による保守費用の増大も考えられます。
当初鉄道各社においては加速度・減速度を高める事によって所要時間の短縮、スピードアップによる本数の増加をはたそうとしていたのですが、特に加速度においては極端に挙げてもそれほど大きな効果が見られないというのが前述した国鉄の101系にて立証されていました。
また一方で私鉄各社が競って誕生させたオールM車による加速度4.0km/h/sという化け物じみた性能はトータルして見ると最良と呼べるものではないという結果も出て来ており各社は転換期に迫られている時期にも差し掛かっていました。
(右上に続く)
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例えば加速度1.6km/h/sを限界ギリギリと言われる4.5km/h/sまで上げても結局1駅で数秒程度の時短程度にしか繋がらないとの事で(条件は様々でしょうが)、とにかく全電動車による高加速化はコストに見合う効果は得られないというものです。
これも3.0km/h/s程度あれば十分ではないかと言われたそうです。当時の地下鉄車両だと4.0km/h/s程度でしたが、現代の地下鉄車両が加速度3.3km/h/sとなっていますのでこれが理想的な数値なんでしょう。で、これなら全電動車でなくともMT比1:1で実現可能だと、前述した小田急HE車で付随車を連結した車両でも加速度3.0km/h/sの車両が誕生しています。こういった見方も出て各社では一気に通勤型電車の全電動車方式からの脱却を図る事となりました。
一方で減速度のアップは時間短縮に大きな効果を発揮する事が証明されましたが、発電ブレーキがメインの場合だと当然電動車が減れば制動力は落ちます。国鉄では101系の後継に製造した103系試作車では8両編成でMT比1:1という大前提があり従来より電動車が減る為、制動力を発電ブレーキで優先的に行う制御にしては粘着係数が確保出来ない事もわかりました。すなわち空気ブレーキも必要だという事が明らかでした。
この様に電気ブレーキにも当然強み弱みがありましたが、私鉄電車と違って使用電力を抑える為に加速性能が低くなっていた国鉄電車では制動力を高める事によって所要時間短縮や運用本数の拡大を目指していました。国鉄車両が発電制動を備え、かつT車にはブレーキにより車輪踏面を傷めるリスクの低いディスクブレーキを採用したのは制動力をとても重要視していた事の裏返しでしょう。
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